目の前に広がる白い景色。
ひんやりと冷たい空気。
寒い場所は苦手だと思っていた。
でも、その美しい光景に思わずため息が出てしまった。
ここは北海道斜里郡斜里町ウトロ。
北海道・女満別空港からは車で約2時間。世界自然遺産に登録された『知床』の観光の中心地。
オホーツク海に面しているこの土地には野生のエゾジカが多く生息し、1月下旬から3月上旬には海が流氷に覆い尽くされる。
ここに集まったフリーダイバーたち。
今から厚い氷の下をフリーダイビング (素潜り)しようというのだ。
外の気温は−4℃。吐く息は白く、頬に触れる空気はピリッと冷たい。
わたしは、好奇心から参加を申し出てしまったことを少し後悔していた。
でもそんな気持ちも、この美しい景色を見たら、どこかに吹き飛んでしまった。
流氷の下に広がる世界はどんなものなのだろう。
寒さに震えながらも、ワクワクしていた。
訪れたのは2月のおわり〜3月のはじめ。ピークをすぎているため、流氷は少しずつ溶けはじめていた。今年は例年よりも流氷が少ないとのことだった。
みんなで協力しながら、潜るポイントまで必要な道具を運ぶ。
氷の割れ目に落ちないように気をつけながら、大きな荷物はソリに乗せる。
安全に潜れる場所に入水するため穴をいくつか開ける。
連日同じ場所を潜っているため、初日に開けた穴をそのまま使用。
1晩たつと水面に氷が張っているため、まずは氷を割って取り除く作業から始まる。分厚くて重たい。
水温は-1℃。垂直に水底に向かって潜ったり、2つの穴と穴の間を平行に潜ったり。いずれにしろ、寒すぎて数秒間しか水中にはいられない。
寒いのか、痛いのか、経験したことのない感覚に戸惑いながらも、
目の前に広がる幻想的な世界に、ただただ感動。
潜っている数秒間がスローモーションのように、ゆっくりと過ぎていった。
待っている間は火の近くで体を温める。風が強い日は水中よりも陸の方が寒い。
体を温めたら、再び氷の下へ。その繰り返し。
『寒さを我慢してでも、水中に行きたい』
公園のすべり台で遊ぶ子供のように、みんな何度も何度も潜り続けていた。
今までにもフリーダイバーが集って開催してきた、この『流氷フリーダイビング』(知床流氷カップ)。2016年以来の久しぶりの開催となり、地元の北海道新聞にも記事が掲載された。
こちら↓
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/282225/
オーガナイザーはウトロ出身のフリーダイバー高木唯さん。
水中モデルやスタントなどの仕事で、今まで多くのメディアに出演している。
北海道沿岸に流れ着く流氷は、ロシアと北海道沖生まれの氷が混ざり合って形成される。
塩分を含んでいる海の水は、普通の水よりも低い氷点下1.8℃にならないと凍らず、また、海の深さが深いほど冷えにくいため、凍りにくい。
オホーツク海はちょうどアムール川の真水が流れ込み、そこにシベリアからの非常に冷たい季節風が吹いて海を凍らせる。
ここは時別な条件がそろっている、北半球で凍る海の中では最も南に位置する海だそう。
この特別な場所でのフリーダイビング に惹かれて、今回は日本のみならず韓国や台湾からもフリーダイバーがやってきた。
知床では『流氷ウォーキング』のツアーも開催されており、流氷の上を歩きながら知床の素晴らしい景色を見ることができる。
この時期しかできない体験。ぜひ行ってみてはいかがでしょうか。
北海道斜里郡斜里町ウトロまでの詳しいアクセスなどは、知床斜里町観光協会 公式サイトから。
<知床斜里町観光協会 公式サイト>
https://www.shiretoko.asia/shiretoko_access.html
※この『流氷フリーダイビング 』は、特別な許可と徹底した安全管理もと開催されました。北海道は条例で漁港内の遊泳、潜水は禁止されています。
参加したフリーダイバーたちは、トレーニングを積んでいる人たちです。
オーガナイズしてくださった主催者さま、寒い中セーフティダイバーをしてくださった皆さま、ありがとうございました。