「10秒前、5、4、3、2、1、オフィシャルトップ、プラス1、2、3…」
静まりかえる水面。
最後の息を大きく吸い込んで、静かに海の奥へ。
体ひとつで深く深く、沈んでいく。
次に吸う息はどんな想いとともにあるのだろう。
アジア最大級のフリーダイビング 海洋競技大会『Asian Freediving Cup(通称:AFC)』。年に1度の大会に向けて、多くのフリーダイバーがトレーニングを積みます。
年々、規模が大きくなっているこの大会。
今年は出場枠を増やしたにも関わらず、申し込みスタートからわずか1分40秒で枠が埋まってしまうという競争率の高さ。
ありがたいことに今回、大会スタッフとして参加し、裏方として選手をサポートする機会をいただきました。その模様をお伝えします。
Asian Freediving Cupとは
大会スタッフの集合写真
2014年よりフィリピン・パングラオ島で開催されている、フリーダイビング 海洋競技大会。
アジアで最も大きな大会で、初心者から世界記録保持者など、参加者のレベルはさまざま。年に1度のこの大会では、毎年、世界記録や多くの国内新記録が樹立されています。
<大会のオフィシャルページ>
https://asianfreedivingcup.com
世界中から集まったフリーダイバーたち
今年の出場枠は全体で80名。アジアを中心にアメリカ本土やハワイ、ヨーロッパなど、世界各地からトレーニングを積んだフリーダイバーが集まりました。
1日目のスタートリスト
各国の出場枠は20名と決まっていて、日本人選手は5名でした。
最終的にキャンセルもあり、出場した選手は60名くらい。
フリーダイビング海洋競技は、空気ボンベなどの道具なしで息を止めて潜り(素潜り)、その深さを競うスポーツ。フィジカルだけでなく、メンタルのスポーツとよく言われます。その特質ゆえに、身体的にも心身的にも、大会に出場するための準備が必要。
体調に少しでも異変を感じたり、気持ちが準備できていない場合は、出場をキャンセルすることがよくあります。
競技の種目や大会の雰囲気などについては、以前にレポートしたこちらの記事をご覧ください↓
https://katoswimclub.jp/iijima-channel20190520/
大会前日の選手登録&競技の説明
大会前日は選手登録や競技の説明をします。出場選手や大会スタッフが集結すると、部屋の空気に少し緊張感が。
すごい人の数。
最後に全員集合して記念撮影。明日からの大会に向けて、それぞれ散っていきました。
大会は”自分”と相談しながら
2019年のAFCは6月9日〜11日の3日間に渡って開催されました。
大会ではダイバー(選手)は1日1ダイブ、計3ダイブが可能です。
一応、以下のように3日間それぞれ種目が決まっていますが、選手はどの種目でも出場できます。
・1日目:CWT(コンスタント ウエイト ウィズフィン)
モノフィン(1枚の大きなフィン)、またはバイフィン(2枚のロングフィン)を履き、一呼吸で垂直に潜れる深度を競う。
・2日目:FIM(フリーイマージョン)
フィンを使わずにガイドロープ(潜行ロープ)を手でたぐり、一呼吸で垂直に潜れる深度を競う。
・3日目:CNF(コンスタント ウエイト ノーフィン)
フィンを使わずに、一呼吸で垂直に潜れる深度を競う。平泳ぎで潜行・浮上するのが一般的。
※決まった種目以外で出場した場合、結果はオフィシャルリザルトとして記録が残りますが、この大会でのポイントはつかないのでゼロポイントになります。
「え、1日に1回しか潜らないの?」
と思う方もいるかと思いますが、
何十メートルもの深さを体ひとつで潜っていく、フリーダイビング海洋競技。
水中でキックをしたり、平泳ぎをしたり、ロープを手でたぐったりして体が疲れるのがもちろん、潜った時に体にかかる水圧、息を止めて海を潜るため、メンタル面の負担も大きいです。
3日間連続で潜る選手もいれば、80m〜100m以上を潜るディープダイバーは中日の2日目にお休みをとる人が多いです。
選手たちは自分の体や心と相談しながら、潜る深度や種目を決めます。
潜る直前は集中&リラックス
大会スタッフのお仕事
今回、大会のスタッフは初めてだったわたし。ウォーミングアップエリアのセーフィティー(安全管理をする人)をしました。
スタッフは大会の数日前に集まってミーティングをします。
ここでスタッフのチーム分け、セットアップ、流れや注意事項などを確認。
選手が多いため、今回はAとBに分けて2箇所で競技を行いました。
それぞれのチームにスタッフはジャッジ(審判)2名、セーフティ4名の計6名。午前の部と午後の部でチームが入れ替わるので、全部で4チーム。
その日の出場人数や選手の潜る深度、種目によりますが、大会はだいたい朝9時〜14時過ぎまででした。
わたしはAの午前チーム。朝8時前から大会のセッティングをしました。
朝7時半に荷物を積んで、ダイビングショップを出発。
荷物と一緒に、ここからボートに乗り込み、岸から数百メートル離れた競技エリアへ。
フロートをいくつか並べて、競技場所、待機場所、ウォーミングアップエリアを作ります。
ガイドロープの先端
フロートから水底へ向かって垂らされる”ガイドロープ”。
選手が前日に申告した、潜る深度にロープの長さを合わせ、その先端にウエイト(重り)、黒いタグのついた白いボトムプレート、ボトムカメラをセット。これを離すと、ウエイトの重さで落ちていきます。
選手はガイドロープに沿って潜っていき、申告した深度に設置したタグを取って浮上します。ボトムカメラは競技終了後に違反行為が無かったかチェックするためのものです。
「潜っている最中に、選手に何かあった時はどうするの?」
とよく質問されます。
この大会では”カウンターバランスシステム”という方法を採用。
2本の垂れ下がっているロープの右側が競技用(ガイドロープ)。こちら側に15キロのウエイト(重り)、その反対側には35キロのウエイトを設置しています。これを留めておいて、緊急時は解きます。すると反対側のウエイトの重さでガイドロープがシーソーのように引き上げられる仕組みです。
ダイバーはラニヤード(命綱)でガイドロープと繋がっているので、強制的に引き上げられます。
選手はみんな申告深度が異なるので、スタッフは毎回ガイドロープの長さを調整します。
他にも限られた時間の中でやることがたくさんなので、チームワークが大切なんですね。
豪華なクロージングパーティー
大会最終日は出場選手、スタッフみんなが集まって豪華なクロージングパーティー。
選手は友達を呼んでOKなので、総勢100名以上のパーティーになりました。
この受付をしていたわたしは、大人数をさばくのに一苦労。ヒーヒーしてました(笑)。
年に1度の大会。年々スポンサーが増え、大会の規模も大きくなっています。
大会運営の裏側を見ることができたことはもちろん、
世界新記録、国内新記録などを間近で見ることができ、良い経験でした。
もっと成長して、来年もぜひスタッフとして参加したいな!