オープンウォータースイミング(英語:open water swimming 以下OWSに略)は、海、川、湖など、自然の水の中で行なわれる長距離の水泳競技。スイム競技というとプールを想像しがちですが、2008年の北京オリンピックより夏季オリンピック正式競技に採用されているアウトドアスポーツです。メジャーになったのは最近ですが、実は神奈川県湘南地域では12年間毎年OWSの大会「湘南OWS」が開催されています。
湘南OWS2015の会場に行ってきました!
「湘南OWS2015」は8/29、8/30に行われました。初日はオリンピック種目と同様の距離10kmの部を逗子海岸と片瀬東浜の間で、2日目は2.5kmの部とフィンスイムの部を逗子湾にて開催されました。今年は海、天候ともにコンディションに恵まれなかったものの、初日は357名、2日目は854名もの参加者が全国から湘南地域に集まりました。
今回お邪魔したのは2日目の逗子湾。念入りに準備体操に励む方、参加者同士や応援に来た家族と会話を楽しむ出場者方々が集る緊張感と高揚感に包まれたスタート地点の様子に、Regional Sports取材班(かとすい運営団体)も心が躍りました!人のワクワク感は空気となって、周りの人に伝染することを実感。スポーツの良さってこれですよね!(スタート地点でもゴール地点でも取材ということを忘れて応援することに夢中になってしまったのはここだけの話です……。)
「もっと海で泳いでほしい、遊んでほしい」レース開催への想い
今回、特別に湘南OWSを主催する湘南マリンオーガニゼーション理事長の藤本さんにお話を伺う時間をいただきました。藤本さんご自身はこの湘南の地で昔からヨットを楽しんでいたそうで、とある課題感を感じたそうです。
「文科省・国交省が出しているスポーツライフ調査の中で、マリンスポーツ参加者の率が非常に低かったんです。そして子どもや若い人たち、みんなビーチには来ますが、海の中で泳いで遊ぶってことをしないんですよね。」
海のアクティビティを身近に感じるきっかけが作れないかと感じた藤本さん。
「泳ぐことはマリンスポーツにおいても原点ですし、やっぱり体全身で海を感じてもらえる、泳ぐレースがまず大事だ!しかもマリンスポーツの発祥の地、メッカである湘南で行いたい!ということで、第1回目の湘南OWSを開催しました。」
大会は年々知名度も上がり参加者も増加傾向。地元の出場者も増えているそう。「高校生くらいの年齢層の参加者も増えていますね。湘南出身のOWSオリンピック選手も出ましたよ!」藤本さんの想いはしっかりと形になっています。
逗子、鎌倉、藤沢3市協働。地域を繋げる湘南OWS
この大会は逗子市、鎌倉市、藤沢市のいわゆる湘南地域である3つの市の協力の元に開催されています。
「市はもちろん、地元の漁師さんの許可も必要になるし、この地域全体の方々のご理解があって開催できるのです。実際に3つの市からも積極的な協力体制を頂き、市同士の繋がりにもなっています。また漁師さんたちも私と同じように海に親しんでほしいという想いをお持ちだったこともあり、ご理解いただきました。」
実は以前は2.5kmの部は七里ヶ浜を会場に行われていた湘南OWS。2年前の台風で江ノ島の道路が破壊された影響で、現在も工事のため海上は使用不可になってしまったそうです。
「10kmの部はスタートを逗子海岸(逗子市)、ゴールを片瀬東浜(藤沢市)に、そして2.5kmの部を鎌倉にして、鎌倉市の浜に人が集まるようにしたいと鎌倉市長とも話しています。」
と藤本さんは今後の展望を話してくださいました。湘南OWSを通して湘南地域が活性化する。そんな素晴らしい流れができています。
ボランティアがいなければ、湘南OWSは盛り上がらない!?
それにしても湘南OWS2015は、非常にたくさんのスタッフがいらっしゃる様子が伺えました。出場者がスタートからゴールして記録紙をもらうまで戸惑うことなく的確に誘導している姿が印象的なこの大会。一体どんな方々が運営に携わっているのでしょうか。
「実はスタッフTシャツを着ているほとんどはボランティアスタッフです。今年は500名程の方がボランティアとして集っています。中には遠方から2〜3日泊りで来ている方もいますよ。ボランティアの皆さんはこれをやってほしい、とお願いする前にみんな仕事を見つけて動いてくださるので、本当に助けられることばかりです。ガムテープなど必要になりそうな備品を各自用意し身につけていつでも使えるようにする、そういった姿勢には感服です。」
実は藤本さんは以前視察に訪れたNYマラソンでボランティアの存在の大きさを知ったと言います。
「あれだけ大きな大会の中で、ボランティアスタッフが非常に熱心にレース中に動いているのを見て、ボランティアの方々がいるからこそ、レースはうまくいくと感じました。」
大会をよいものにしたいという熱い想いは主催者だけでなく、ボランティアの方々も同じ。大会終了後の達成感を思うと、ボランティアスタッフとして携わることも、「大会参加者」なのです。
フィンスイムに集団遠泳、楽しみ方は色々
湘南OWSの注目ポイントにフィンスイムの部門があるということ。なんと、公式の大会は日本ではここだけだそう。
「第二のオリンピックともいわれるワールドゲームズでは公式種目ということもあり、湘南OWSでは第1回目から部門を設けています。フィンを使うと何もつけないで泳ぐより足首を使うし、体の使い方も変わりますよ。フィンの選び方なども重要ですし、それも面白いところです。」と藤本さん。
このフィンスイムの部に友人同士で出場された3名に突撃インタビューさせていただきました!幼少から水泳を、最近はトライアスロンに出ているという湘南出身の南さんは「フィンスイムのレースは初めてだったのですが、フィンをつけて泳ぐのは結構難しかった!」とのこと。南さんに誘われてOWS初参加となった田所さんは「毎年出場しているレジェンドの方にレース前にうまいフィンの脱ぎ方とか教えてもらいましたよ。そういうコミュニケーションも面白かったですね。」と初のOWSを満喫した様子。サーフィンで海に慣れている三浦在住の出口さんは「スタート50mで足がつってしまったんです。フィンがあれば余裕だろうと思ったけど大間違い。ダイビング用のものは大きすぎて……」とちょっと悔しそうでした。「この大会は地元の人も出ている人が多いですし、知名度高いですよ。」とお話くださった南さん。地元の方にとって、実際に夏恒例のイベントとなっているようです。
また毎年、レースとは別に子ども向けにグループ遠泳も同時開催している湘南OWS。今年は江ノ島スイムツアーには135名、逗子スイムツアーには61名もの方が参加されました。
「これはフィンも浮き具も何を使ってもOK。子どもにとって海で泳ぐことを楽しいと思ってもらえたらなと思い、毎年行っています。」
家族や友達と一緒に、遠くまで泳いでみる。今までにない体験が子どもたちの心と体を育みます。
どこにいても、どんな人にも海で泳ぐ楽しさを、体感してほしい。
湘南OWSのホームページを拝見すると冠に「チャリティ」という言葉があります。
「この大会の収益は、東日本大震災被災地の海水浴場に、ライフセーバーが使用するレスキューチューブを送る活動につながっています。被災地では津波でレスキュー用具流されてしまい、まだ充分にそのような用具が足りていないのです。」
被災地でも安全にそして楽しく海を泳いでもらうために重要なレスキューチューブが、今年も被災地へ送られます。
また今年の湘南OWS、最年少は小学校5年生、最年長は85歳(!)と本当に老若男女問わず沢山の方がレースを楽しんでいました。ハンディキャップをもった出場者も今年は10名ほど参加されていたとのことで、ユニバーサルな大会として成り立っています。
「プールとは違って波があり、コースのレーンもない。そこが面白いところです。」同じ湘南地域の海でも年によってもコンディションも異なりタイムも変わってくるのも。自然と一体になって泳ぎを楽しむOWSの魅力を、湘南OWSを通じて沢山の人が感じていることでしょう。もちろん、来年も開催予定です!
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「湘南OWS」公式HP
http://shonanows.jp/